

正しければ3番目も正しくなるそうやってバッティングというものは自分で積み重ねていくものだと教わりました。関根さんはこうも言われました。バッターとして一流と言われる人間が100回打って30回しか成功しない。あとの70回は悩んでいる悩んだときにどこへ戻るか、その戻る場所をもっていない人間は1年でさよならだよ、と。言葉にすれば簡単な話なのですが、これを毎日繰り返す間にようやくバッティングの基本のようなものが自分の中に入ってくるようになりました。広岡さんとの出会いもなかなか強烈でした。私がロビーにいたときに広岡さんが入ってこられたので、荷物をお持ちしますと言って、すぐに荷物をお預かりして、部屋に案内しました。広岡さんは、この球団は教育ができているじゃないかと言われたのですが、しばらくしてから食堂へ全員集合という話になりました。合宿所のメンバー全員で食堂に行ってみると、広岡さんは開口ー番、この球団はどういう教育をしているんだと言って怒っています。「先程トイレに行ったら下駄がばらばらだった。こういう球団でいい球団はない。トイレの下駄を見た瞬間にこの球団の守備の下手さがわかった。トイレというのは、入る人間と出る人間とでは、必ず入る人間が急いでいる自分がすっきりして落ち着いている状態の者が、どうして次の者のために下駄が揃えられないんだ。守備の基本もそこにある。捕球したあと、勝手に投げてうまくいくわけがない。どこへ投げたら相手が取りやすいかということを考えなければだめだ。あとの人間のことを考えることができないで守備がうまくなるわけない。」
広岡さんの話はこのような趣旨でした。トイレの話が出て戸惑っているうちに、いきなり守備の話に移行し、そこでいろいろと教えていただきました。守備には基本しかないということ。ファインプレーは時々生まれるおまけであるということ。打球が来たら正面に入るとか、腰を落とすとか、まさに中学生に教えるような話でした。プロですから、もう少し格好いいのはないのかと思いましたら、守備にはそういうものはないというのです。この基本を教えてもらいながら、別の角度からものの見方を教わりました。
キャンプの練習時間は6時間で、そのうち4時間が守備練習です。広岡さんに、打撃練習との時間配分で不満はないかと聞かれまして、私は正直に、打つ方がおもしろいですと答えました。すると広岡さんは、守備の時間と打席の関連を明快に示されたわけです。勝ち負けにかかわらず守備側は9回守らなければなりません。これに対して打席はおおむね4回まわってきます。9回と4回、つまりは倍の時間守備練習が必要だというわけです。また、守備でエラーすることは打席で三振することの何倍も傷つくという話も教えていただきました。関根さんの話にもありましたが、バッターは、一流の人でも100回打席に立って30回しか成功しないものです。逆に言えば70回の失敗に選手もファンも慣れていますし、許容される部分があるわけです。ところが、守備の世界はそうはいきません。普通の選手で、自分の守備範囲に100本打球が飛んできたら、96本はアウトにします。4本しかミスがないわけです。25回に1回の失敗ですから、エラーした人間もファンも慣れていません。ファンは怒るわけです。あのバカ、河やっているんだという気持ちになります。それで大きく傷つくわけです。そこが守備とバッティングの最大の違いだということを広岡さんは話されました。
その意味が本当にわかったのは昭和50年、広島カープが優勝したシーズンのことです。例年のシーズンは、いつもは6月すぎに優勝戦線から脱落する
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